消えゆく花のように ~fading like a flower(every time you leave)/ROXETTE(『JOYRIDE』収録)

今、ロクセットのことを覚えている人はどのくらいいるのだろう。

 僕がロックばかり聴いていて、変な意地みたいなものもあってなかなか素直に「普通の」曲を聴けなかった頃に、この曲と出会った。きっかけは何を隠そう高校の頃付き合っていた彼女である。毎日フル回転しているテープにもさすがに飽きが来て、「なんか良い音楽ある?」と彼女に聞いてみると、「じゃあ、こういうのも聞いてみれば」と一本のカセットテープを貸してくれた。カセットにはビリージョエルの「オネスティ」やエンヤの「Evening Falls...」などいろんな人のいろんな曲が入っていた。ごちゃ混ぜ、である。その中にロクセットも数曲入っていたわけだ。

その音が筆となって聞き手の心に様々な情景を描く曲は記憶に残る。今、久々に「消えゆく花のように」をリピート再生で何回も聞きながらこの文章を書いているのだが、このことを改めて思った。もちろん、景色は人それぞれでいい。同じ曲を聴いて一方が海を感じて、他方が空を感じることだって十分あり得る。ちっとも悪くない。ちなみに僕はこの曲を聴くといつも大地を思い浮かべる。アメリカのどこかに横たわっていそうな、地表がからからに乾いた夕日を浴びる大地だ。そして、昔見たその風景は今の僕にも見える。そんな曲っていいな、と思う。

 「消えゆく花のように」はイントロとかギターのなかにロックっぽいアプローチもあるけど全体としては良質のポップだ。本人達は「力強いバラード」と言っている。たしかに。イントロは定番と言ってしまえばそれまでなのだが、それでもこういう入り方は格好いい。元々土の匂いのする歌だと思うが、さらに泥臭くアレンジしてバンドでもっと乾いたサウンドで演奏してみたら実はかなりはまるんじゃないかという気がする。歌詞的に言えば、どちらかというと切ない歌なのだが、深みにはまることなく、むしろ潔ささえ感じさせるサウンドが心地よい。曲自体もコンパクトにまとめられ、且つしっかり構築されている。

 95年に出たグレイテストヒッツ(この年は雨降りの後のタケノコの如くグレイテストヒッツが発売されましたね)を聞けばわかると思うけど、ロクセットは良質なポップをたくさん生み出してきた。アルバムにしても、いわゆる捨て曲や手抜き曲というものが圧倒的に少ない。よく日本ではCMソングやシングル曲を気に入って、収録されているアルバムを買ってみたら、他曲はとても聴けたもんじゃなかった、ということがあるみたいだけど(ありますね?)、彼らには、曲の好みの問題を別にすれば、あまりそういうことはないと思う。ただ、ロクセットはマリーとペールが半々くらいの割合でヴォーカルを担当するから、たとえばマリーの声を聞いてファンになった人が、ペールの歌う曲にがっかりするということ(またはその逆)はひょっとしたらあるかもしれない。いずれにしても、曲を、しかも良質の曲を産み続けるということは並大抵のことではない。音楽が好きという情熱と才能のなせる技なのだろう、と僕は思う。

 岩のように重い僕の扉をこじ開け、「普通の」曲の素晴らしさを教えてくれたこの曲に感謝。もう、そんなにしょっちゅうしょっちゅう聞くことはなくなったけど、「消えゆく花のように」とこの曲を生んだロクセットのことは忘れることはないと思います。

 ちなみに、今年の夏('98)久々に元彼女さんと偶然会って色々楽しくお喋りしたのだけど、カセットを借りたおかげでいろんな曲を聴くようになった、という話をしたら、元彼女さんは「へ、ロクセット?誰?」と素晴らしく明確な返答をしてくれた。昔はさんざん僕に勧めて、自分は勝手に舞い上がっていたのだけど。時は僕が思っているよりは早く流れるのかもしれないな。