恋の効用

 僕はどっちかというと余程の不慮の事態が起こらない限り割と平常心を保つことが出来る方だと思う。例えば、試験中にとんでもない失敗をやらかしたり、日常の中で突然悲しい出来事が起こったりしても、何とか表向きは取り乱さずに出来るだけ冷静に対処しようとし、実際それが割と可能であると客観的に思う。

でも、好きな人が自分の恋人になってくれたという事実がもたらす精神作用のもとでは、そんなささやかな統制機能は麻痺してしまうらしい。

 はっきりいって、浮かれている時の僕は、そりゃもう阿呆である。

 何をするにも「心ここにあらず」なのだ。デパートで気がついたら目的と全く関係のない女性服売り場でエスカレーターを降りてしまっていて下着コーナーへ迷い込んで赤面したり、CD屋で計6280円のCDを買うのに1万円札を出したのだけど店員のお姉さんが変な顔をするからお金をよく見てみると5000円札だったり、ジーンズショップで気がついたら女性物のコーナーでジーンズを眺めた挙句店員さんにこれ履いて見てもいいですかと堂々とたずねてみたり、洗顔フォームで歯を磨きそうになったり、と列挙に暇がない。へぇーこんな側面もあったのか、と他人事のようにみょーに感心してしまう(感心してる場合ではない!)。まあ、年がら年中腑抜けモードだとちょっと問題あるけど、こういう気持ちになるのって悪くないな、と僕は思う。